No 2

早朝のセーブル
P10

55 × 38

セーブルとは現在私が住んでいるパリ郊外の町です。昔は王侯貴族に親しまれた陶器、セーブル焼で有名です。
この絵は夜が明け始めて間もない時刻。あたりがまだ暁の輝きでピンクに染まっている時刻。人々がまだ活動していない時刻。
空気が新鮮で、深く吸い込むと少し痛さを覚える時刻。一日が何もかも新しくて、誰もまだ触ったことのない時刻。
昨日のけだるさなど一切ない、張り詰めた緊張で研ぎ澄ました時刻。
どこまでも透明なブルーとピンクの鮮やかさを画面に残しいと思いました。セーブルに住み始めたころに着手してすでに10年が経過しました。ついに完成できず、細かく描きこんだ家々の姿は消え、道も消え、路上に止まっているトラックも消え、蛍光灯の仕込まれた道しるべもその形がなくなってしまい、全く敗北したまましばらく筆を置くことにしました。
しかし、そのときに絵が出来上がりました。つまり完成できなかったという仕上がりです。なんと、私が描きたかったブルーとピンクのせめぎ合いが出来ていました。



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